異文化ビジネスSNSで既存の関係を深める:フォロー申請・メッセージ送信の適切なタイミングと注意点
既存のビジネス関係をSNSで深める意義と潜むリスク
メールやオンライン会議、あるいは対面で既にビジネス上の関係を築いている海外の顧客やパートナーと、SNSで繋がることは、関係性をより強固にし、非公式なコミュニケーションチャネルを確保する上で有効な手段となり得ます。ビジネス関連の情報交換だけでなく、相手の人となりを知ることで、よりスムーズなビジネス推進につながる可能性も秘めています。
しかし、異文化間においては、こうした一歩が思わぬ誤解やビジネス上のリスクを招く可能性も否定できません。特に、仕事とプライベートの境界線に関する文化的な感覚の違いや、SNSの利用方法に対する意識差は大きく、安易な気持ちでコンタクトを取ると、かえって関係性を損ねてしまうこともあります。
本記事では、既にビジネス関係がある相手に対し、異文化間のSNSでコンタクトを取る際の適切な判断基準、フォロー申請やメッセージ送信時の具体的な注意点、そして関係性を損なわずにビジネス上のメリットを最大化するためのポイントを解説します。
フォロー申請・友達申請を検討する際の異文化間チェックリスト
既にビジネス関係がある相手にSNSでコンタクトを取るかどうかは、慎重な判断が必要です。特に異文化間では、以下の点をチェックし、相手の状況や文化への配慮を忘れないようにしましょう。
- 相手の文化圏におけるSNS利用の浸透度と慣習: ビジネスと個人のSNS利用に関する一般的な考え方は、国や地域によって大きく異なります。例えば、中南米や一部アジアではビジネス上の関係でも比較的フランクにSNSで繋がることが多い一方、欧州の一部や中東ではプライバシーを重視し、ビジネス関係者との個人的なSNS接続に抵抗がある場合があります。事前にその国のビジネス文化やコミュニケーションスタイルについてリサーチすることが重要です。
- 相手のSNSアカウントの性質: 相手が公開しているSNSアカウント(LinkedIn以外の場合)を事前に確認してみましょう。ビジネス関連の投稿が多いのか、家族や友人とのプライベートな投稿が多いのか。これにより、相手がそのSNSをどのような位置づけで利用しているかのヒントが得られます。完全にプライベートな利用にとどまっているアカウントへの申請は、慎重に判断すべきです。
- ビジネス関係性の段階と深さ: 出会ったばかりの相手か、長期的な取引があり信頼関係が築けている相手かによって、適切なアプローチは異なります。関係性が浅い段階での個人的なSNSへの申請は、唐突に感じられる可能性があります。
- コンタクトを取るプラットフォーム: LinkedInはビジネス特化型であるため、比較的フォーマルなつながりを求める文化圏でも受け入れられやすい傾向があります。FacebookやInstagramなどはより個人的な側面が強いため、申請する際のハードルや求められる配慮レベルが高くなります。
- 自身のSNSアカウントの公開設定と投稿内容: 自身のSNSアカウントがどのように見られているか、公開設定はどうなっているか、過去の投稿にビジネス相手に見られて困る内容はないかなどを確認しておきましょう。相手はあなたのプロフィールや過去の投稿を見て、申請を承認するかどうかを判断する可能性があります。
これらのチェックポイントを踏まえ、「SNSで繋がることが、本当にビジネス上の関係強化につながるか」「相手に不快感を与えないか」を冷静に判断することが求められます。
申請時に添えるメッセージの具体的な書き方
フォロー申請や友達申請を送る際は、ほとんどのSNSプラットフォームでメッセージを添えることができます。このメッセージは、相手があなたの申請を承認するか否かを判断する上で非常に重要です。特に異文化間では、簡潔かつ丁寧な表現を心がけましょう。
- 目的を明確に伝える: なぜSNSで繋がろうと思ったのかを具体的に伝えます。「〇〇(会議名やプロジェクト名)では大変お世話になりました。今後も情報交換などさせていただければと思い、申請させていただきました」「△△(共通の知人や興味)についてSNSでも交流できればと思い、申請いたしました」のように、共通の接点や具体的な意図を示すと、相手は安心して承認しやすくなります。
- 丁寧語を使用する: ビジネス上の関係性がある相手への申請では、たとえ普段フランクに話す間柄であっても、最初のコンタクトとしては丁寧な言葉遣いを基本とします。「ご承認いただけますと幸いです」「お手数ですが、ご確認いただけますでしょうか」といった控えめな表現が望ましいでしょう。
- 簡潔にまとめる: 長すぎるメッセージは相手に負担を与えます。2〜3文程度で、目的と簡単な挨拶を伝えるようにしましょう。
- 異文化への配慮: 過度に親しげな表現や、相手の文化で理解されにくいスラング、ユーモアは避けます。フォーマルさを重んじる文化圏の相手には、より丁寧で控えめな表現を心がけます。
仮想事例:
- 失敗例: 「やっほー!〇〇の時の△△だけど、SNS繋がろー!よろしくね!」(親しすぎる口調、目的不明確)→ 相手が困惑し、承認されない可能性。
- 適切な例: 「〇〇様、先日は△△プロジェクトで大変お世話になりました。〇〇会社の(あなたの名前)です。今後も引き続き情報交換などさせていただければと思い、LinkedInでの接続申請を送らせていただきました。ご承認いただけますと幸いです。」(丁寧、目的明確、自身の情報を付記)→ ビジネスライクで相手が安心して承認しやすい。
承認後の初回メッセージとコミュニケーションのポイント
申請が承認されたら、感謝のメッセージを送ることを検討しましょう。これも簡潔に、「この度は承認いただき、ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」といった内容で十分です。
その後のSNS上でのコミュニケーションは、相手の投稿内容やSNSの性質に合わせて慎重に行う必要があります。
- 「いいね」や簡単なコメント: 相手の投稿に「いいね」や簡単なポジティブなコメントをするのは、関係性を維持・強化する上で有効です。しかし、個人的な写真や家族に関する投稿への過度な反応は、相手によってはプライバシーの侵害と感じられる場合があります。ビジネス関連の投稿や、趣味など公開されているパーソナルな側面に関する投稿への反応に留めるのが無難です。異文化間では、特に政治、宗教、個人的な信念に関わる投稿へのコメントは避けるべきです。
- DM(ダイレクトメッセージ)の活用: SNSのDMは、メールよりも迅速かつフランクなコミュニケーションが可能ですが、ビジネスの依頼や交渉など、フォーマルな場で議論すべき内容をいきなりDMで持ち込むのは避けるべきです。SNSの種類、相手の文化、話題の重要度を考慮し、「これはDMで話すべきか、メールや会議で話すべきか」を適切に判断しましょう。緊急性の高い連絡や、機密情報を含む内容はSNSでは行わないのが基本です。
- 情報共有の範囲: 自身のSNSでの投稿内容も、ビジネス相手に見られている可能性があることを意識し、仕事に関するセンシティブな内容や、会社の方針と矛盾するような個人的な意見の発信には十分注意が必要です。異文化圏のビジネス相手に誤解を与えたり、不信感を生んだりする可能性のある投稿は避けるべきです。
仮想トラブル事例と回避策:
- 事例: 既にメールでやり取りのあるアジア圏の取引先担当者に、Facebookで友達申請。相手のアカウントが家族写真中心のプライベートなものだったため、相手が戸惑い、数日後に申請を拒否された。
- 回避策: 事前に相手のSNSアカウントを確認し、プライベート利用が中心の場合はLinkedInに留めるか、より丁寧なメッセージを添えるべきだった。または、関係性の段階によっては申請自体を保留すべきだった。
- 事例: 欧州のパートナー企業担当者(LinkedInで接続済)に対し、週末にFacebookのDMで緊急性の低いビジネスの相談を持ちかけた。担当者からの返信が遅く、その後「業務時間外のSNSでの連絡は控えてほしい」とメールで伝えられた。
- 回避策: 異文化間では仕事とプライベートの区別が明確な場合が多いことを理解し、業務時間外や週末のSNS連絡は避けるべきだった。緊急性の低い内容は、改めてメールで連絡すべきだった。
まとめ:異文化間のSNSで既存関係を活かすために
既にビジネス関係がある海外の相手とのSNSでの繋がりは、関係性を深め、新たなコミュニケーションチャネルを確保する上で有効です。しかし、異文化間においては、その一歩を踏み出すタイミングや方法、そしてその後のコミュニケーションに細心の注意を払う必要があります。
- 相手の文化やSNS利用慣習を事前にリサーチする。
- 相手のSNSアカウントの性質を確認し、申請するか否か、どのプラットフォームにするかを判断する。
- 申請時には、丁寧かつ目的を明確にした短いメッセージを添える。
- 承認後のコミュニケーションは、相手の投稿やSNSの性質に合わせて慎重に行う。
- DMでのビジネス連絡は、内容とタイミングを考慮し、必要に応じてメールや会議体を使い分ける。
- 自身のSNSでの発信内容にも注意を払い、ビジネス相手に誤解を与えないよう配慮する。
これらの点を意識することで、異文化間ビジネスにおけるSNS活用が、単なる個人的な交流に留まらず、より信頼性の高いビジネス関係構築の一助となるでしょう。